ニコラさんたちとお別れした僕は、ストールさんがのってきた馬車にごとごと揺られながら錬金術ギルドへ。
僕んちのみたいにフロートボードで浮いてるわけじゃないけど、ふっかふかのクッションがついてる椅子だったもんだから、お尻が痛くある事も無く無事着いたんだ。
カランカラン。
「こんにちわ!」
「はい、こんにちは。ルディーン君は、朝から元気じゃのぉ」
でね、御者のおじさんにおろしてもらった僕は、たったったって走ってって、いつもの赤い扉を開けながらご挨拶したんだよ。
そしたらいつものようにカウンターに座ってたロルフさんが、にこにこしながらお返事してくれたんだ。
「旦那様、ハンバー様とルディーン様をお連れしました」
「うむ。ライラも、ご苦労じゃったのぉ」
「恐れ入ります。また夕方ごろにお迎えに上がりますので、わたくしはこれで」
ストールさんはイーノックカウで買った僕んちでのお仕事があるし、それにニコラさんたちに教えなきゃいけない事もあるでしょ?
だからこう言ってからぺこってお辞儀すると、僕たちが乗せてもらってきた馬車に乗って帰ってったんだ。
「して、ヴァルトよ。今日はどこまで進めるつもりなのだ?」
「うむ。その事なのだが、実は一つ、先にこなさねばならぬ事ができたのじゃよ」
僕たち、ベニオウの皮を使ったお薬の事でここに来たでしょ?
だからお爺さん司祭様は、今日はどのくらい研究するつもりなの? って聞いたんだよね。
だけどそれを聞いたロルフさんは、他にやらなきゃダメな事があるんだよって言うんだ。
「先にやらねばならぬ事?」
「ああ、それに関しては私から説明しますわ」
それを聞いたお爺さん司祭様はロルフさんに何の事? って聞いたんだよ。
でもそんな司祭様に、カウンターの後ろにある扉から出てきたバーリマンさんが代わりに教えてあげるって言ったんだ。
「ふむ。して、何があったのかな?」
「はい。昨日の視察でルディーン君の館の井戸に、水をくみ上げる魔道具をつけることになったでしょう?」
「そう言えば、そのような話になっておったな」
「工事をするものにその話を通したところ、なるべく早く設置してほしいと言われたそうなのです」
お風呂場の壁に新しくつける扉から、井戸で汲んだお水を入れるってだけだったら何の問題も無いんだって。
だけど、せっかく水を汲み出す魔道具を作るんだったら、そのまんまお風呂に水を入れられるようにしたいよね?
だからその事を工事する人に話したんだけど、そしたら実際に魔道具をつけてもらわないと作業ができないって言われちゃったんだってさ。
「なるほど。貴族街の家を建てる職人ならばともかく、この辺りの建物を改装する者となると、魔道具を扱う事はあまりないであろうからな」
「はい。建物の設計段階から魔道具を使う事が解っていたのであれば問題は無いのですが、今回は後付けですから」
「ギルマスが用意する魔道ボイラーは当然として、念のためキッチンに置く魔道コンロまで早目に入れて欲しいと言われたくらいだからのぉ。一刻も早く取り付けて実際に動いているところを見なければ、どれくらい時間がかかるか解らないと府ワンなのじゃろうて」
イーノックカウって貴族様やお金持ちが住むとこじゃなくって、明かりとかご飯屋さんの魔道コンロとかみたいに魔道具をつけるお家がいっぱいあるんだよ。
でもね、そういうとこはみんな、魔道具のお勉強をしたことがある人たちがよく考えながらお家の設計図を描くんだって。
だから普通の職人さんでも安心して工事ができるんだけど、今回はもうできちゃってるお家に後からつける事になったでしょ?
そうなるとそういう設計してる人でも実際につける魔道具を見てからじゃないと、何処にどうやって付けたらいいのか解んないそうなんだ。
「と言う訳で、わざわざ足を運んでくださったハンバー司きょ、司祭様には悪いのですが、ルディーン君に教えながら先に水汲み用の魔道具を製作しようと思っているのですわ」
「確かに、そのような事情ならば仕方があるまい」
お爺さん司祭様は今日、ベニオウの実を使って作るお薬のために錬金術ギルドに来たよね?
でも魔道具が無いと僕んちの工事ができないって事で、先に井戸から水を汲むための魔道具を作るお勉強をしてもいいよって言ってくれたんだ。
「バーリマンさん。お勉強をするのはいいけど、材料はあるの?」
「ええ。昨日も話した通り水を汲む魔道具本体の構造自体は簡単なものだから、昨日のうちに用意してもらったわ」
井戸につける時はおっきな部品がいっぱいいるそうなんだけど、お水を汲み上げる魔道具自体はそんなにおっきくないんだって。
だから昨日魔道具が早く欲しいってお話を聞いた時に、今朝までに材料を持ってきてねって頼んどいたんだってさ。
「ただ、取り付けるための風の魔石が手に入らなかったみたいで」
「ええっ! お水を汲むのに水の魔石を使うんじゃないの?」
「普通はそう思うわよね。でもこの魔道具には、水ではなく風の魔道具を使うのよ」
水の魔石には、お水を動かす力があるんだよね。
だから僕、お水を汲み上げる魔道具は水の魔石を使うんだろうなぁって思ってたんだ。
でもね、水の魔石だと水を汲み上げる時に問題があるんだよってバーリマンさんは言うんだ。
「ルディーン君も知ってる通り、水の魔石に含まれている魔力は水流を操る力があるわ。でもね、それには動かす水が水の魔石の周りか、その魔力が影響を及ぼすほど近くにある必要があるのよ」
「お水に?」
「ええ。でも水を汲み上げる魔道具なんだから最初、水は離れた場所にあるでしょ? だから水を汲み上げる魔道具は作れないのよ」
そう言えば魔石の属性魔力って、それぞれの力を引き出したり動かしたりするもんだっけ。
これが魔道コンロに火をつけるのに使う火の魔石みたいに、どっかからお水を出すっていうんだったらいいんだよ。
だってそれだったら回路図を使ってそこまで水の魔力を持ってって、そこで発動させればいいんだから。
でも汲み上げる場合は水の魔石があるとこにまだお水が無いんだから、魔道具を使って動かす事はできないよね。
「あっ、でもそれだったらお水があるとこに魔石をつければいいんじゃないの?」
「確かにそう考えるわよね。でもね、ルディーン君。その方法だと魔石な井戸の底に設置する事になるわよね? なら魔力の元である魔道リキッドは、どうやってその魔石に補充すればいいのかしら?」
「あっ、そっか!」
お水があるとこに魔石をつけるって事は、井戸の中に入れるって事だもんね。
そりゃあ、移動の上から管を伸ばして魔石のとこまで魔道リキッドを持ってくこともできるだろうけど、それだとどれくらいリキッドが残ってるのか解んないよね?
それにもし魔道具が故障した時は、直すために井戸の底から魔道具を上まで引き上げないといけなくなっちゃうもん。
それだったら最初っから上につけられる、風の魔石を使った魔道具の方が便利だよね。
「風の魔石を使う理由、納得できたみたいね」
「うん! 風の魔石で作った方が、絶対いいよね」
「それが解ったのなら、はい、これ」
バーリマンさんはそう言うとね、何でか知らないけど僕に無属性の魔石を渡してきたんだ。
だから僕、頭をこてんって倒したんだけど、そしたらバーリマンさんはちょっと困ったように笑いながらこう言ったんだ。
「実は私もロルフさんも風系統の魔法を覚えていないから、風の魔石に属性変換できないのよ」
「じゃからな、ルディーン君。すまぬがこの魔石の属性変換を頼まれてくれぬか?」
「うん、いいよ。僕の魔道具を作る魔石だもんね」
という訳で僕は、さっき貰った魔石を属性変換させて風の魔石を作ったんだ。
作中で魔力はそれぞれの属性の者を動かす力があると出てきます。でもこれ、実際には動かせる属性は限られるんですよね。
だって風や水はいいですよ? でも土なんてそう簡単に動きませんし、火だって燃えている中に魔石を入れたら当然溶けてしまいます。
それに特殊属性で言うと、氷も土同様動かそうと思ったらかなりの力が必要になるでしょうし、雷なんか触れさせることさえ至難の業です。
だから実際に動かせるのは水と風(空気)くらいでしょうか。
まぁ、指向性を持たせるという意味で言えば光もできるんですけど、明るい所で魔石の周りの光だけ一定方向に動かしてもはた目には解りませんよねw